一応、アニメ準拠の世界です。


 はん!いい加減にしてよね!

 馬鹿シンジのヤツ、急にテストだって、慌てて早引けしちゃった。

 どうせあの馬鹿、今日が人類にとってどんなに重要な日だって事知らないのよ!

 今日はね、この惣流・アスカ・ラングレー様が、下界に降臨した記念日なのよ!

 ふんだ!ど〜せ、日本じゃ誰も知らないのよ!

 

アスカ様生誕記念SS・その2

誕生日はアイツと一緒

 

 

 あ〜あ、今日は晩御飯のときに、いきなり誕生日だって言い出して、

 馬鹿シンジを慌てさせようと考えていたのになぁ…。

 つまんないな…。

 馬鹿シンジ、何のテストなんだろ…。

 一人で誕生日の晩餐なんてイヤよね…。

 ご飯が残ってたら、レトルトカレーでいいか。

 後でショートケーキでも買いに行こうかな…。

 ううん、やめておこう。自分でバースデーケーキを買いに行くなんて惨めよ。

「ただいま…」

 って、誰もいないよね。

 あれ?何かいい匂い…。

 煮込みハンバーグに鳥の唐揚げ、フルーツサラダ。

 きちんとラップされて、テーブルに置かれているご馳走。

 メモが一緒に置かれてた。

『時間がなかったので、ここまでしかできませんでした。

 ホントはケーキを作ろうと準備してたんだけど、ごめんなさい。

 松代だってミサトさんが言ってたから、帰れないかもしれません。

 お誕生日、おめでとう。             碇シンジ』

 4回目に読み直したとき、不意に涙が流れてきたの。

 悲しいんじゃないわね、これは。

 うん、あの馬鹿シンジが気障なことするからよ。

 くそ!馬鹿シンジの癖にこのアスカ様を泣かせるなんて!

 帰ってきたら、お仕置きしてやる!

 だから!だから…、できれば…、今日中に帰ってきて欲しいな…。

 言葉で、おめでとうって言って欲しいから…。

 へ?私、何考えてんだろ?ばっかみたい!

 あ、この唐揚げおいしい!

 サラダは冷蔵庫に入れておこっと。

 ピンポ〜ン!

 あれ?シンジかな?早く帰れたんだ!

 私は高速走行で玄関に飛んでいき、扉を開けたの。

「げ、ファースト…」

「来たわ。命令だから」

 

 ファースト、綾波レイはケーキの箱を持っていた。

 そして、ズカズカとリビングに入っていき、その箱をテーブルに置いた。

 私は腕組みをして、入り口に立ちはだかったの。

「で、何が命令なのよ!」

「ケーキの配達」

「は?」

「それから、弐号機パイロット。誕生日、おめでとう」

「へ?」

「これも命令。じゃ、帰るわ」

「ち、ちょっと、待ちなさいよ!

 いきなり来て、命令だからの連発で、さっさと帰るわけ?」

「そう。もう用はないから」

「アンタねえ。誰の命令なのよ」

「碇君」

「は?馬鹿シンジ?」

「馬鹿はいらない。碇君がケーキを届けてくれって電話してきた。

 それから『誕生日おめでとう』と言うように。それが命令」

「あ、アンタねえ。それは命令じゃなくて、依頼、お願いって言うの。

馬鹿シンジはそう言ってたでしょうが」

「馬鹿はいらない。確かにそう言ってたわ」

「はぁ…、アンタ国語の点数悪いでしょ」

「悪いわ。悪い?」

「頭おかしくなりそう…。とにかく座んなさいよ」

「何故?」

「たとえ命令でもケーキ持ってきて、おめでとうを言ってくれた人を

 あっさり帰らせるわけにいかないでしょうが」

「何故?」

「あ〜!仁義よ、仁義。わかる?」

「わからない。仁義。人の行うべき道。義理人情。親分子分の間で…」

「もう!何、広辞苑の暗誦してるのよ!さっさと座る!」

 私は強制的にファーストを座らせたわ。

「えっと、アンタ紅茶は飲める?」

「飲めるけどいらない」

「ふん!飲めるなら飲みなさい」

「命令なら」

「じゃ、命令よ。飲むの」

「弐号機パイロットの言うことは命令にはならない。だから飲まない」

「うきぃ!わかったわよ!」

 私は携帯電話を取り出した。

 そしてミサトを呼び出す。

『ちょっと、アスカ。私忙しいのよね』

「話は早いの。ここにファーストがいるから、言ってやって。

 弐号機パイロットの言う通りに動くこと。それが命令だって」

『何、それ?』

「いいから。アンタ忙しいんでしょ。さっさと命令してやってよ。

 そうしないと紅茶も飲まないんだから」

『ぷっ!何、ははは。いいわ、代わって』

 私は電話をファーストに投げた。

 無表情に受け取って、耳に持っていく。

「はい、綾波です」

『▽■○×▲□◎』

「わかりました。命令なら」

 電話を切ったファーストに、私は勝ち誇って命令した。

「はん!わかった?アンタは紅茶を飲むの。いい?」

「飲むわ。命令だから」

「よろしい!」

 もう!このお人形は!頭に来るから、一番いい葉っぱ使っちゃおっと。

「アンタ、その辺のもの食べてていいわよ」

「命令?」

「いやなの?」

「肉ばっかり。弐号機パイロットは肉食」

「あ、そうか。アンタ肉だめだっけ」

 たしか、クッキーとかおせんべいがあったよね。

 私はあちらこちらからファーストが食べられそうなものを寄せ集めたわ。

 私ってこんなに面倒見よかったっけ?

 ファーストは礼も言わずに、おせんべいをバリボリかじってる。

「アンタ、紅茶はどうやって飲むの?」

「カップに入れて飲む」

「アンタ、一回殺すわよ。ミルク入れるの?砂糖は?」

「コーヒーはブラック。苦いけど砂糖がないから」

 はぁ…。話してると、頭に来るより、あきれてしまうわね。

 それに、こうして話してると、なんか要領がわかって来たわ。

 そうなってくると、結構面白いわね。

「今飲むのは紅茶なの。そのまま飲む?」

「弐号機パイロットはどうするの」

「私はミルクだけ」

「じゃ私もそれでいい」

「ふん!一口飲んで苦かったら、砂糖入れなさいよ」

 う〜ん、やっぱり美味しい!はぁ…、ファーストが変な顔してるよ。

 私は砂糖壷の蓋を開けて、ファーストの前に押しやった。

「ほら、入れなさいよ。あ、一杯よ。ドバドバ入れるんじゃないわ」

 ふぅ…、言っとかないとやりそうだもんね。

 さて、どうするかな?まだ5時だし。

 このまま、誕生日が終わるのも面白くないし。

 そうだ!ケーキを作れないからって、シンジ書いてたよね。

 ということは、材料はあるってことじゃない!

 ふっふっふ。結果はともかく、いい暇つぶしになりそう。

「よし!飲み終わったら、ケーキ作るわよ」

「作れば」

「はん!アンタも一緒に作るのよ、ファースト!」

「それは命令?」

「そうよ、命令よ!アンタ、どうせケーキづくりなんてやったことないでしょ!」

 ふるふると首を振るファースト。

「私もないわ!」

 自慢げに言い切る私を見て、ほんの少しだけファーストの表情が動いたわ。

 ふふん、今のが呆気にとられた表情、ってやつね。

「よぉし!まずは作り方を調べないといけないわね!

 困ったときはインターネットよ!」

 ある、ある。結構色んなレシピが掲載されてるじゃない。

 ふ〜ん、これなんか作れそうじゃない?

「ちょっとファースト、どれにする?」

「どれでもいい」

「かぁ〜っ!アンタも作って、食べるんだから、企画段階から参加しなさいよ!

 命令、そう、命令よ!」

 あ、面白い!ファーストのヤツ、命令の連発にご機嫌斜めみたいね。

 少しだけ、頬っぺたが膨らんで、唇がとんがってる。

 これがご不満なときの表情なんだ。

「ほらほら、これと、これと、あとこれね。どれにする?」

「二つ目」

「どうして?」

「美味しそう」

「ふ〜ん、こんなのがいいんだ。よし!じゃこれに決定!

 アンタが決めたんだから、手を引くのは許さないからね!」

 

 碇君のエプロン…、ぽっ…。

 くぅ〜!何か無性に腹が立つわ!

 私だってしてやるんだから!

「あ、これ、馬鹿シンジ愛用のスリッパ。私履き替えちゃおっと」

 うわ!睨んでるよ。はん!これであいこよ。って、何勝負してんのよ、私は。

 さてさて、最初は何をするのかな…。

 

 キッチンは戦場。

 そんな言葉ってなかったかしら。

 結構難しいじゃない!

 でも、面白いわ。ファーストだって、やる気になってるみたいだし。

 負けらんないのよ!

 

 2時間経過。

 へっへっへ…。

 それっぽいのができたわ。

「ほら!どう?」

「画像と違う」

「はん!味は同じなのよ!ほら!」

 ……。

 ……。

 ……。

「さて、もう一度、最初からね!」

「弐号機パイロットは諦めが悪い」

「うっさいわね!あきらめるってのはね、最後の最後にすることよ!」

「まだ最後にならないの?」

「まだまだ!材料はまだあるし、

 アンタだってきちんと作って馬鹿シンジに食べさせたいでしょ」

 ファーストはきょとんとしている。

「自分が作ったモノを食べさせたくない?誉めて欲しいと思わない?」

「弐号機パイロットは誉めて欲しいの?」

「と〜ぜんじゃない!へ?何言わすのよ、アンタ!」

「どうして?碇君に誉めてもらうと嬉しい。弐号機パイロットが変…」

「そ、それはアイツが料理の鉄人だからじゃない!他に意味はないわよ!

 もう!アンタと喋ってたら、おかしくなっちゃう」

「弐号機パ」

「アンタ、その弐号機パイロットての止めてくれる?」

「それはアナタが私のことをファーストと呼ぶから」

「かぁ〜っ!わかったわよ。いい?

 アンタはこれからレイ。私のことはアスカ。わかった?

 これは命令。命令だからね!

 もしこの命令に逆らったら、馬鹿シンジのことを初号機パイロットって呼ばせるわよ!」

「駄目。碇君は碇君だもの…(ぽっ)」

「はいはい、じゃ、馬鹿シンジは碇君でいいから、私はアスカ。

 決して、アカゲザルとか、暴力女とか、そんなので呼ばないでね」

「赤毛猿がいい」

「うきぃ!おとなしくしてれば、いい気になって!

 赤毛猿って言ったら、馬鹿シンジにキスしてやる!」

「何故?何故、キスするの?そう…キスは愛情の表現。碇君のことを好きなの?」

「はん!自分が好きだからって、みんなそうだと思わないでよ!」

 あれ?どこからこんな話になったんだっけ?

 

 午後11時。

「できたぁ!」

「はぁ…やっとできたのね」

 よし!ケーキ初号機完成よ!

「じゃ、私帰るわ」

「な、何言ってんのよ!こんな時間に帰せるわけないでしょ。

 アンタは泊まるの。ここに。そうね、特別にいいことしてあげるから」

「いいこと?何それ?気持のいい事?」

「そうよ。綾波レイが泣いて喜びそうなこと」

「泣く…?悲しいことなの?」

「違うわ!嬉しくておいおい泣くのよ!アンタがね」

「おいおい?わからない。おいおいって何?」

「はん!すぐにわかるわ!先にお風呂よ!粉塗れだもん!」

 どうして、二人でお風呂に入っちゃったんだろ?

 不思議。別に憎んでたわけじゃないけど、嫌いだったのに…。綾波レイのこと。

 向こうも同じ気持だったみたい。

 変ね。何だか、レイって、面倒見たくなっちゃう。

 これって、変よ。変。私が他人の面倒見るなんて。

 ドイツの知人が知ったら、きっと地球の滅亡の前兆だって大騒ぎするでしょうね。

 だって、レイったら、髪の毛も乾かそうとしないんだもん。

 つい、ドライヤーで乾かしてあげてしまっちゃうのよ。

 そしたら、なんと!あのレイが気持ちよさそうな顔しちゃうんだから!

 それがまた可愛いの!この子のこんな顔、もっと見たいな…。

 あれ?今日って、私の誕生日だよね。

 どうして、私が奉仕しなきゃいけないのよ。してもらう立場でしょうに。

 ま、いいか。私自身が納得してりゃいいのよ。

 世界は私のために存在してるんだから!

 え…。レイ、寝ちゃったよ。アンタね。仕方ないわね。

 私はレイを抱えて、ソファーへ移動させたわ。

 はん!天才にして怪力、惣流・アスカ・ラングレー様なら、レイくらい軽い軽い。

 シンジのパジャマ着せたら、ぽっ、てなっちゃうし、ははは、わかりやすいヤツ。

 ソファーですやすや眠っちゃってさ…。

 こんな誕生日もいいよね。

 なんか全然予想と違った誕生日になっちゃったけど。

 馬鹿シンジがレイにケーキを持ってこさせたのがよかったんだ。

 いつの間にかレイと仲良くなっちゃったし、うん、これはとってもいいことなのよ。

 なんか可愛い妹をプレゼントしてもらったみたい。

 私もちょっと疲れちゃったな。レイ、ちょっと肩貸してね。

 

 翌早朝、松代から帰宅したシンジとミサトは、

 ソファーで寄り添って眠る、二人の天使を発見したの。

 へへへ、いいもの、見れたでしょ。

 

 でもさ、

 近い将来、この生きた誕生日プレゼントと馬鹿シンジを張り合うようになるとは、

 神ならぬ身の、この天才惣流・アスカ・ラングレー様にはわからなかったのよね。

 

 はぁ…、情けをかけるんじゃなかった…。

 レイが人形じゃなくなっちゃったから、シンジがよろめくかもしれないじゃない。

 はん!でも、最後に勝つのは、私、この天才惣流・アスカ・ラングレー様よ!


<あとがき>

 こんにちは、ジュンです。生誕記念SS<その1>で少し気分が沈んじゃったので、急遽書いたSSです。

 本当はシンジとの誕生日を描こうと考えて執筆がスタートしたのですが、何故か相手がレイになってしまいました。 何故?作者もわかりません。なんとなく二人を仲良くさせたくなったのかもしれません。

 ってことで、まだリハビリが完全じゃないので、学園エヴァで<その3>を書きました。

 

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